著 /益田 實
挿絵/千野慎一郎

ある日のことでした。
いつものように、松の木の上まで下りてきた夫の竜が、松の木の根元のしげみの中を通りかかる妻の竜を見つけました。胸がどきどきしました。そばへ走りよりたい気持ちをじっとこらえて静かに言いました。

「玉がまだ見つからないのだね。でもあきらめてはいけないよ。根気よく探せば必ず見つかるからね。」
「はい。あきらめたわけではないけれど。いくら探しても見つからないので、もう、くたびれてしまいました……。」

悲しそうに松を見上げて答える妻の竜は、すっかりやつれていました。

「なんとかして、玉を見つけて天上へ帰ってくれ。わたしの所へもどってくれ!」

夫の竜は、久しぶりに出会うことのできた妻の竜になんの手助けもできず、もどかしさに身をふるわせました。

「わかりました。がんばります……。」

夫の竜にはげまされた妻の竜は、気を取り直して池の方へ向っていきました。こうして、池の中をくまなく探す日々が続きました。しかし、玉はなかなかみつかりません。月日は流れましたが、玉はやっぱり見当たりません。とうとうこの芦のおいしげった池のあたりの主となって、玉を探しながら住むようになってしまいました。
夫の竜は、毎日のように松の木の上まで下りてきて妻の竜の姿を探しましたが、その後は見つけることができません。それでも、松の木の上から芦の原や池を見守ることをやめませんでした。
このようにして、あの玉を落とした日から九百九十九年の年月がたちました。帝釈天様は、くる日もくる日も松の木まで力なく下りていく夫の竜の姿と、よろよろと池の中の玉を探し回る妻の竜のようすを、じっとごらんになっていました。

(ああ、あわれじゃのう。不注意で玉を落としたのじゃから、こらしめのために玉が見つからないようにしむけたのじゃが。もう、いいじゃろう……。)

とつぶやきました。そして、ある日、夫の竜を呼びました。

「なにか御用でございますか。」
「お前を呼んだのはほかでもないが、わしがさずけた玉を見つけ出して、妻を早く天に連れもどしたいじゃろう。どうじゃな。」

「はい。さようでございます。」
「それでは教えてやろう。よく聞きなさい。」
「はい。」

「あれから丁度、来年が千年目に当たる。その千年目の、玉を落としたのと同じ日に、下界の山や沢や、そして芦のしげみや池などがはっきりと見える日がある。そのときに、あの玉がピカッと光る。しかも、下界からは、お経を唱える声が聞こえてくるからよくわかるじゃろう。そのとき、玉を見つけ出し、手にのせて、雲をわかせ、雨を降らせて、一気に天にのぼるのだ。」

夫の竜は、帝釈天様のおっしゃることを一つ一つうなづきながら、しっかりと聞きました。暗闇に一すじの光がすうっとさしこんできたような気がして胸がおどりました。

「ありがとうございます。では、さっそく妻の竜に知らせてやりたいと思います。」

夫の竜は、池の近くの松の木へ急ぎました。妻の竜は、広い池の中か、芦のしげみのどこかにいるはずです。夫の竜は、木の枝から身をのり出して大声で話しました。次の日も次の日も松の木の上から、夫の竜の声があたりにひびきわたりました。これを聞きつけた妻の竜は、元気を取りもどし、静かにその日を待つことにしました。